異所性妊娠(子宮外妊娠)

異所性妊娠(ectopic pregnancy)は,受精卵が本来の着床部位である子宮内腔以外に着床して起こる妊娠と定義されます。従来は「子宮外妊娠」という一般にもわかりやすい用語が用いられていましたが、間質部妊娠、頸管妊娠、帝王切開瘢痕部妊娠(cesarean scar pregnancy)など子宮内ではあるが子宮内腔以外への妊娠も存在するため、「異所性妊娠」を使用すべきとされました。

着床部位によって卵管妊娠(間質部、峡部、膨大部、采部)、卵巣妊娠、腹膜(腹腔)妊娠、子宮頸管妊娠、帝王切開瘢痕部妊娠に分類されます。また精査を行っても着床部位が不明でhCGのみ陽性を示す着床部位不明異所性妊娠(PRL;pregnancies of unknown location)も存在します。無症状の段階での診断と治療が重要であり、異所性妊娠流産・破裂は妊産婦死亡にいたる疾患であることを再認識するべきでしょう。

異所性妊娠の原因

正常な妊娠の場合、卵管膨大部という場所で受精した受精卵は、6~7日かけて子宮内膣に移動して着床します。しかし、何らかの原因で子宮の中へ移動できず、受精した場所で着床してしまった状態が異所性妊娠です。

子宮外妊娠を発症する原因は、現時点ではわかっていません。しかし、これまでの発症例から、クラミジアという性感染症に感染している、或いは過去に感染したことのある方の発症率が高いため、クラミジア感染による卵管や腹膜の癒着や表面塑造が関与している可能性があります。

異所性妊娠の頻度と診断

異所性妊娠は全妊娠の1~2%の頻度と推定されています。生殖補助医療(ART)による妊娠では、異所性妊娠の頻度が2倍程度に増加すると従来報告されてきましたが、培養期間の延長や凍結胚移植などの技術の進歩と単一胚移植の普及によってその頻度は有意に減少しています。日本産科婦人科学会の全国データベースを用いた最近の報告では,新鮮分割期胚移植で2.2~2.4%、凍結胚盤胞移植では0.8%でした。一方、帝王切開の増加により帝王切開瘢痕部妊娠は2,000妊娠に1例程度に増加し、頸管妊娠より頻度は高くなると考えられています。

また、子宮内妊娠と異所性妊娠が共存する正所異所同時妊娠(heterotopic pregnancy)は多胎の一種でもあり、自然妊娠では約30,000妊娠に1例と極めてまれですが、ARTで複数の受精卵を子宮に戻す場合は100妊娠に1~3例もの高率で発生すると報告されています。排卵誘発剤を用いた通常不妊治療による多胎妊娠は増加していると考えられているため、正所異所同時妊娠についても注意が必要です。

異所性妊娠の診断・治療と予防

異所性妊娠の診断・治療

異所性妊娠は、尿中妊娠反応陽性で、経腟超音波で子宮内の胎嚢が確認できない、子宮外に腫瘤または胎嚢様構造物を認める、ダグラス窩に貯留液を認める、循環血液量減少(貧血・頻脈・低血圧)を疑う、流産手術後、摘出物に絨毛を認めない、急性腹症を示す、などのサインが挙げられます。主に経腟超音波の所見で診断します。

妊娠に気づきながら故意に妊娠を隠したい場合や、本当に妊娠に気づかない場合もあるので、妊娠反応検査(尿中hCG半定量検査)を原則全例で行うなどして,できる限り早期の診断を心がけることが重要です。なお,子宮内腔の液体貯留,子宮内膜内の偽胎囊や脱落膜囊胞が胎囊と誤認されることもあるため,胎囊内の卵黄囊を確認するなどの注意が必要です。

異所性妊娠の治療は手術療法が原則ですが、症例によってはより低侵襲のmethotrexate(MTX)による薬物療法や待機療法を選択できます。また着床部位(頸管妊娠や帝王切開瘢痕部妊娠など)によっては薬物療法や経カテーテル動脈塞栓術(TAE)を先行する場合もあり得ます。

手術療法は開腹手術が一般的でしたが、現在は腹腔鏡下手術で行われることが殆どです。

また、頻度の多い卵管妊娠の場合は、卵管を切除する卵管切除術が選択されることが殆どですが、挙児希望がある、病巣が5cm未満、血中hCGが1万単位未満、初回卵管妊娠、未破裂などの条件を満たせば、卵管を切除しない卵管温存手術(卵管切開術)を施行することが可能です。卵管温存手術は術後の再発を来す危険性を残すため慎重な判断が求められます。

薬物療法は約90%、待機療法は88%の成功率と言われますが、何れも適応、条件を吟味する必要があり、急変にすぐ対処する準備も必要で、一般的ではありません。

異所性妊娠の予防

異所性妊娠が起こる原因が明らかになっていないことから、確実な予防法はありません。しかし、これまでの発症例からはクラミジアの性感染症の患者が多いため、クラミジアを含めた性感染症を防ぐことが、異所性妊娠の予防に繋がると考えられます。不特定多数の人と性交渉をしない、コンドームを正しく装着する等、性感染症には十分に注意しましょう。

この記事の監修

ひらた女性クリニック 院長平田 英司

みなさんこんにちは、ひらた女性クリニック院長の平田英司です。
長崎大学医学部を卒業し広島大学産科婦人科学教室に入局して以来、25年以上にわたり総合病院勤務医として婦人科腫瘍、産科、女性医学、不妊と産婦人科の四つの診療分野につき幅広く研鑽を積んで来ました。婦人科は広島県の代表的な婦人科腫瘍専門医として手術執刀を含め診療の中心的役割を担い、産科はNICU 設置病院に主に勤務し総合的周産期医療に従事してきました。
しかし、こと外来診療に関しては、仕方がないことですが、総合病院の外来はどこも効率優先から待ち時間が長く診療時間が短くなりがちで、病気や問題の本質にせまり難く、これがストレスになっていました。
患者さんも医師も納得する診療、とにかくていねいな診療、これを実現するべく自分のクリニックを開院させて頂く運びとなりました。一見軽微に思える症状でも、また症状がなくとも抱えた問題について気軽に相談でき、かつ専門的診療まで実施可能で、さらに広島市内県内のみならず全国の高次医療機関への紹介が可能な「究極のかかりつけ医」を目指します。
「どうせうまく治らない」「どうせわかってくれない」「女性医師でないからわからない」と思いつつでもいいから、気軽に受診して下さい。必ずや、あなたの問題を一緒に解決し、快方に向かわせられると思います。

【経歴・資格・所属学会】

【略歴】
広島県呉市出身、幼少期は福山市育ち
広島市立袋町小学校, 広島大学附属中・高等学校 出身
長崎大学医学部医学科 卒業
広島大学産科婦人科学教室 入局
以後、JA尾道総合病院、呉共済病院、公立御調病院、四国がんセンター、
広島大学病院(診療講師、統括医長、医局長)、東広島医療センター(医長)に着任

【資格】
医師免許
学位(甲、広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 外科系専攻)
日本産科婦人科学会専門医・指導医
婦人科腫瘍専門医
細胞診専門医
母体保護法指定医

【所属学会】
日本産科婦人科学会(専門医・指導医、役員(幹事)歴あり、代議員歴あり) 
日本婦人科腫瘍学会(婦人科腫瘍専門医、代議員歴あり)
日本臨床細胞学会(細胞診専門医)
日本周産期・新生児学会 
日本女性医学学会(旧更年期学会)
日本産科婦人科遺伝診療学会
日本エンドメトリオーシス学会(旧内膜症学会)
日本癌治療学会
日本癌学会

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