過敏性腸症候群
緊張や強い不安を感じると腹痛に襲われるという方も多く、腹痛だけでなく便通障害も伴う場合もあり、日常生活に大きな影響を与えることもあります。緊張や不安、ストレスからくる腹痛・便通障害はもしかすると「過敏性腸症候群(IBS)」かもしれません。過敏性腸症候群の症状は、日常生活に大きな不快感や辛さをもたらすものです。
しかし、過敏性腸症候群は薬物療法や生活習慣に気をつけることで改善が期待できるものです。また、大腸がん等の重篤な疾患と共通する症状でもあるため、気になる症状があれば受診を検討しましょう。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群になる原因ははっきりとはわかっていません。しかし、ストレスや腸内細菌、遺伝等も関わっていると考えられています。
ストレスや腸内細菌、遺伝等により引き起こされる過敏性腸症候群の大きな要因として挙げられる原因が「腸の運動機能異常」「知覚過敏」「心理的要因」の3つです。
腸の運動機能異常
原因は主に精神的なストレスです。大きなストレスを感じると中枢神経もストレスに影響され腸の運動が過剰になることがあります。これを脳腸相関といいます。その結果、過敏性腸症候群として腹痛や便通障害を発症します。
知覚過敏
腸が僅かな刺激に対しても反応してしまうことです。緊張等のストレスが刺激になることもあります。また、感染性腸炎等で腸内細菌の状態や粘膜が傷つきやすくなっている場合でも過敏になることはあります。
心理的要因
ストレスや緊張だけでなく、うつ病や不安障害等の精神疾患によるものです。実際、うつ病や不安障害を患っている方に過敏性腸症候群は多く見られます。また、腸の動きには自律神経も大きく関わっています。精神疾患ではなくても自律神経が乱れやすい方は過敏性腸症候群になりやすいでしょう。
症状
過敏性腸症候群の症状は大きく3つに分類されます。「下痢型」「便秘型」「混合型(交代型)」です。このどれにも当てはまらないものは「分類不能型」と呼ばれます。症状の分類に用いられる指標は「RomeⅣ基準」という指標です。
RomeⅣで定められている症状の特徴と合わせて、より分かりやすく分類毎に症状を解説します。
下痢型
RomeⅣ基準によると『軟便(泥状便)または水様便が25%以上あり、硬便または兎糞状便が25%未満のもの』とあります。便の性状以外で言うと、急に激しい腹痛に襲われ、下痢をきたします。1日に何度もトイレに行かなくてはならず、何度もトイレに行くことや、トイレに対する不安自体がストレスになりやすいでしょう。また、過敏性腸症候群の代表的なタイプで、男性に多いことも特徴です。
便秘型
RomeⅣ基準によると『硬便または兎糞状便が25%以上あり、軟便(泥状便)または水様便が25%未満のもの』と定められています。いきんでもコロコロとしたウサギのフンに似た便しか出ず、スッキリできないことが便秘型の症状です。排便時にお腹が苦しく感じる場合もあります。また、強くいきんでしまうことが多いため痔になる危険もあります。下痢型が男性に多いのに対し、便秘型は女性に多いことが特徴です。
混合型
混合型は激しい腹痛があり、下痢と便秘を繰り返すことから「交代型」とも呼ばれます。RomeⅣ基準によると『硬便または兎糞状便が25%以上あり、軟便(泥状便)または水様便も25%以上のもの』とされています。実際には、下痢と便秘のどちらかに偏ることが多いでしょう。腹痛以外にも、腹部膨満感(お腹の張り)やガス、場合によっては吐き気や頭痛を伴うこともあります。
上記に当てはまらず、腹部膨満感や不意にガスが出てしまう症状の場合を「分類不能型」としています。
診断基準と検査
腹部膨満感や辛い腹痛、下痢・便秘を繰り返す等の症状は過敏性腸症候群以外の重篤な消化器疾患である可能性もあります。過敏性腸症候群は大腸カメラやCT等では大腸に炎症等の所見がないことも特徴です。そのため、大腸カメラやCT等で他の疾患である可能性がない場合に過敏性腸症候群を疑います。
よって、過敏性腸症候群の検査は、大腸がん等の他の消化器疾患と同じ様な検査です。問診等でライフスタイルや食生活、症状について詳しく問診し、過敏性腸症候群の診断をします。診断の際に用いられる基準も上記で紹介したRomeⅣ基準です。診断に用いられるRomeⅣ基準の内容は以下の通りです。
腹痛や腹部の不快感が過去3ヶ月の間続いていて、症状が少なくとも1週間につき1日以上あり、次の3つの項目のうち2つに該当すると過敏性腸症候群と診断されます。
- 排便に関連する
- 排便頻度の変化に関連する
- 便形状の変化に関連する
過敏性腸症候群の治療
過敏性腸症候群の治療は、「生活習慣の改善」「薬物療法」を基本に行い場合によっては「心理療法」を行います。
「生活習慣の改善」では食事を規則正しい時間に摂ることや栄養バランスの取れた食事内容を心掛ける等、食事に関することを中心に改善します。しかし、過敏性腸症候群を改善させるために気をつけたいのは食事だけではありません。例えば、しっかり睡眠をとることやお風呂でゆっくり温まること、なるべくストレスを溜めないことも重要です。
薬物療法では、便秘や下痢を改善する薬や消化器の機能を正常に戻す薬等を患者の症状に合わせて処方します。
薬物療法だけでは改善しない場合や、うつ傾向や不安障害が疑われる場合は薬物療法に並行して「認知行動療法」等の「心理療法」が行われます。
仁愛内科医院 院長今川 宏樹
【経歴・資格・所属学会】
広島大学医学部医学科卒業
広島大学医学部附属病院・県立広島病院・中国労災病院・井野口病院・公立みつぎ総合病院・JA尾道総合病院・国立病院機構 呉医療センター・広島記念病院などで勤務