梅毒

本邦の梅毒感染者は,2010年から増加し2018年は7,000例を超えています。女性は男性より増加が著しく、女性患者の4分の3は15~35歳で、梅毒に感染した妊婦も増加傾向にあります。また,クラミジアとの混合感染や,HIV感染との合併例も少なからず生じます。

梅毒の原因

梅毒の病原体は梅毒トレポネーマという螺旋状菌で、皮膚や粘膜の小さな傷から侵入することによって感染し、数時間後に血行性に散布されてさまざまな症状を引き起こす全身性の慢性感染症です。感染は、菌を排出している第1、2期の感染患者との粘膜の接触を伴う性行為や疑似性行為により生じます。感染した妊婦の胎盤を通じて胎児に感染する経路もあり、これは新生児の先天梅毒の原因となります。

梅毒の症状と診断

梅毒は、まず感染後3~6週間の潜伏期を経て、経時的にさまざまな臨床症状が出現しまていきます(表1)。

顕性梅毒の第1期は、感染して約3週間で梅毒トレポネーマの進入部位に、初期硬結および硬性下疳が形成されます。これは無治療でも数週間で軽快するのです。

第2期は血行性に全身に病変が移行していきます。第1期の症状が消失した後4~10週間の潜伏期を経て、手掌・足底を含む全身に多彩な皮疹、粘膜疹、扁平コンジローマ、梅毒性脱毛等が出現します。また子宮頸部にも病変が出現することがあり子宮頸癌との鑑別を要します。この第2期も数週間~数か月で無治療でも症状は軽快します。

(表1)顕性梅毒の症状


(クリックするとPDFで確認できます。)

潜伏梅毒は梅毒血清反応陽性で顕性症状が認められないもので、第1期と第2期の間、第2期の症状消失後の状態を主に指し示します。

無治療の場合には、約1/3で第3,4期の晩期症状が生じてきます。数年~数十年の後期潜伏梅毒から、ゴム腫、心血管梅毒、進行麻痺、神経梅毒に進展するのです。

先天梅毒は、梅毒に罹患している母体から胎盤を通じて胎児に伝播される多臓器感染症です。妊娠に与える影響としては、流早産、子宮内胎児死亡、子宮内胎児発育不全などが生じることがあります。出生児への影響として、早発性先天梅毒は生後数週から2-3カ月で発症し、骨病変、鼻炎、皮疹、髄膜炎などが生じます。遅発性先天梅毒は7~14歳で発症し、歯の異常、実質性角膜炎、難聴、皮膚異常、中枢神経障害を呈してきます(Hutchinson3徴候)。

梅毒の検査は,カルジオリピンを抗原とする非特異的検査(STS:serologic test for syphilis;RPR:rapid plasma regainなど)と、梅毒トレポネーマを抗原とする特異的検査(TPHA法:treponema pallidum hemagglutination test;TPLA法:treponema pallidum latex agglutination;FTA-ABS法:fluorescent treponemal antibody absorption test)を行います。血清抗体は感染後、初めにカルジオリピンに対する抗体価(STS)が上昇し、次いでトレポネーマに対する特異的抗体価(FTA-ABS,TPHA,TPLA)が上昇します。STS抗体価は治療に反応して下降するため、治療効果の判定にも利用されますが、特異的抗原ではないため生物学的偽陽性反応があり得ます(表2)。(TPLAは、TPHAと比べより迅速かつ特異性が高い方法です。)

(表2)梅毒の診断(文献3)より改変


(クリックするとPDFで確認できます。)

TPHA抗体測定は、特異性は高いのですが、治療後も継続的に陽性となるため、過去の梅毒感染との区別がつき難いです。STS陽性は潜伏梅毒あるいは梅毒既往の可能性を示します。梅毒症状が認められない場合には、TPHA抗体の上昇に加えて、STS抗体価の上昇(通常16RU)を確認すべきです。

梅毒の診断が確定した場合、感染症法に基づき届け出を行うことになります。抗体価の推移で陽性となり梅毒と診断した患者、梅毒血清反応(STS)で16倍以上の無症状の患者も、都道府県知事に7日以内に届け出なければなりません。

早期診断には、皮疹や外陰部病変を見逃さないことが重要です。また、パートナーの検査も行い、陰性の場合でも経過を観察すべきです。梅毒の診断が確定した場合は、本人・パートナーに十分な説明の後にHIVや淋疾、クラミジアの検査を行うべきです。

妊婦健診では通常、初期にSTSとTPHAまたはTPLAを検査し、陽性であれば梅毒と診断されます。妊娠初期のスクリーニングだけでは、妊娠中の梅毒感染が見逃される可能性があり、本来ならば妊娠後期の再度の梅毒検査が必要と考えられています。

梅毒の治療法

治療には、殺菌的に働くペニシリンが第一選択であり、ベンジルペニシリンベンザチン投与が基本となります。経口合成ペニシリン剤(アモキシシリンなど)を長期間(第1期で2~4週間,第2期で4~8週間)投与することが推奨されています。ペニシリンアレルギーがある場合には塩酸ミノサイクリンまたはドキシサイクリンを使用し、妊婦にも基本的には同様ですが、ペニシリンアレルギーの場合スピラマイシン酢酸エステルを使用する場合があります。治療開始直後に発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛、発疹などが出現することがありますが(Jarisch-Herxheimer現象)、対症療法でほぼ軽快します。妊婦はこの反応で流早産になることがあるため、注意が必要です。

治療効果の判定としては、STS抗体価の減少と臨床所見を経時的に追跡します。効果判定の時期は、早期顕性梅毒では3~6か月後にSTS抗体価の減少(治療開始前の値の1/4以下に低下)を確認します。

梅毒感染と診断された妊婦にはペニシリン剤を投与し、無症候性梅毒の場合では抗体価が低くても母子感染する場合があるため、感染が確認されたら直ちに治療を開始します。妊娠中期に超音波検査で胎児や胎盤をみて母子感染徴候がないか確認し、治療した梅毒感染妊婦は妊娠後期と分娩時に抗体価を測定し、治療効果を判定します。

梅毒の治療法

梅毒感染者は古典的は性行為感染症ですが、今後も増加傾向であり、早期の診断と治療が重要です。皮疹や外陰部病変を見逃さず、医療機関への受診を躊躇しないことが大切です。医療機関も、皮膚科、泌尿器科、産婦人科とも、普段の診療の際、症状や検査で梅毒を見逃さないことに留意する必要があります。アジアでは近年HIV患者での梅毒が増加しており、梅毒の罹患率は5倍程度高いとの報告もあります。日本でも梅毒とHIVの重複感染が10~20%の間で報告されています。梅毒陽性の場合は,十分な説明の後にHIV検査を行うことが推奨されます。

この記事の監修

ひらた女性クリニック 院長平田 英司

みなさんこんにちは、ひらた女性クリニック院長の平田英司です。
長崎大学医学部を卒業し広島大学産科婦人科学教室に入局して以来、25年以上にわたり総合病院勤務医として婦人科腫瘍、産科、女性医学、不妊と産婦人科の四つの診療分野につき幅広く研鑽を積んで来ました。婦人科は広島県の代表的な婦人科腫瘍専門医として手術執刀を含め診療の中心的役割を担い、産科はNICU 設置病院に主に勤務し総合的周産期医療に従事してきました。
しかし、こと外来診療に関しては、仕方がないことですが、総合病院の外来はどこも効率優先から待ち時間が長く診療時間が短くなりがちで、病気や問題の本質にせまり難く、これがストレスになっていました。
患者さんも医師も納得する診療、とにかくていねいな診療、これを実現するべく自分のクリニックを開院させて頂く運びとなりました。一見軽微に思える症状でも、また症状がなくとも抱えた問題について気軽に相談でき、かつ専門的診療まで実施可能で、さらに広島市内県内のみならず全国の高次医療機関への紹介が可能な「究極のかかりつけ医」を目指します。
「どうせうまく治らない」「どうせわかってくれない」「女性医師でないからわからない」と思いつつでもいいから、気軽に受診して下さい。必ずや、あなたの問題を一緒に解決し、快方に向かわせられると思います。

【経歴・資格・所属学会】

【略歴】
広島県呉市出身、幼少期は福山市育ち
広島市立袋町小学校, 広島大学附属中・高等学校 出身
長崎大学医学部医学科 卒業
広島大学産科婦人科学教室 入局
以後、JA尾道総合病院、呉共済病院、公立御調病院、四国がんセンター、
広島大学病院(診療講師、統括医長、医局長)、東広島医療センター(医長)に着任

【資格】
医師免許
学位(甲、広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 外科系専攻)
日本産科婦人科学会専門医・指導医
婦人科腫瘍専門医
細胞診専門医
母体保護法指定医

【所属学会】
日本産科婦人科学会(専門医・指導医、役員(幹事)歴あり、代議員歴あり) 
日本婦人科腫瘍学会(婦人科腫瘍専門医、代議員歴あり)
日本臨床細胞学会(細胞診専門医)
日本周産期・新生児学会 
日本女性医学学会(旧更年期学会)
日本産科婦人科遺伝診療学会
日本エンドメトリオーシス学会(旧内膜症学会)
日本癌治療学会
日本癌学会

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