肺気腫
肺気腫は長期の喫煙や汚染された空気を吸い続けたことによって起きる肺の組織の破壊による病気です。進行はゆっくりですが、一度壊れた肺の組織は元には戻りません。そのため、治療は肺の破壊の進行を抑えたり、症状を和らげることに焦点を当てて行われます。
また、この病気は喫煙習慣が大きく関与しているため中年以降の男性でよく発症し、最近では慢性気管支炎とまとめてCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と呼ばれるようになりました。
肺気腫の原因
肺気腫の原因は、長期の喫煙など汚染された空気の吸引によるものです。汚染された空気を吸い続けることで、徐々に肺の組織が壊されていった結果起こります。そのため、喫煙習慣のある人だけでなく、身近に喫煙習慣のある人がいると長年の受動喫煙により発症してしまう可能性もあります。
また、日本ではまれではありますが、α1アンチトリプシン欠損症という単一遺伝子の異常により発症することもあります。
肺気腫の症状
肺気腫は発症初期には、ほとんど自覚症状がありません。しかし、病気が進行していくと咳や痰を生じることが多く、また動いた際に、息切れしやすいという症状が現れることが多いです。肺の機能が徐々に低下していくため、最終的には酸素吸入が必要になることもあります。
肺気腫では空気が通る気管支に炎症が起こるため、咳や痰といった症状が現れやすくなり、痰が詰まることによる呼吸困難も起こることがあります。
また、栄養不良や筋肉の減少といった症状が現れる場合もあります。肺気腫が進行すると呼吸をするために使うエネルギーが沢山必要になってくるので、呼吸に栄養が使われるようになると、他の所に栄養が行きにくくなり栄養不良に陥ります。また、咳や痰などにより口からの栄養が取りにくくなることも、栄養不良になる原因の一つです。
筋肉の減少に関しては、少し動くだけで息切れなど息苦しさを感じてしまうため動かなくなり、運動不足に陥ることで、筋肉を日常的に使わなくなる事によって引き起ります。
肺気腫と慢性気管支炎の違い
肺気腫と慢性気管支炎の大きな違いは、発症する部位です。
肺気腫の発症部位は肺胞です。肺胞は酸素などのガスの交換場所であり、肺胞が弱り破裂することで肺の表面積が減ります。肺の表面積が減ると、酸素の交換の効率が下がってしまい、呼吸が苦しくなります。
主な症状は、呼吸困難や喘鳴(呼吸の際にゼーゼーと音がすること)、慢性的な疲労、しつこい咳、頻脈(成人において1分間に100回以上の早い脈拍のこと)などです。
慢性気管支炎では、名前の通り気管支の慢性的な炎症が問題となります。人の体では、炎症が続くと自己防衛機能により粘液が発生します。これが痰となります。これらの粘液の分泌が過剰に起こると気管支が狭くなっていき、空気が通りにくくなるため息苦しさを感じるようになります。また、慢性気管支炎は3か月から2年程度の長期間で持続的な咳と痰を特徴的な症状とします。その他の症状としては、息切れや呼吸困難、喘鳴、胸の圧迫感・不快感、慢性的な疲労感などです。
また、慢性気管支炎でもガスの交換が上手くできず、酸素の供給不足によりチアノーゼが現れることがあります。チアノーゼでは、血液中の酸素不足により、皮膚や唇が青みがかった色合いとして現れます。さらに血液中の酸素が少ない状態が長期間続くと、肺の血管が狭くなり肺高血圧が生じ、足や足首など末梢の腫れを引き起こすこともあります。
これらの肺気腫と慢性気管支炎を合わせて、COPD(慢性閉塞性肺疾患)といいます。
肺気腫の治療と予防
肺気腫の治療
肺気腫の治療は主に以下の3つの治療を行います。
- 禁煙の徹底
- 在宅酸素療法や呼吸リハビリテーションでの換気障害の改善
- 薬による治療
薬による治療では気道を広げる薬を中心に投与していき、症状の改善につなげていきます。
通常は抗コリン薬など吸入の気管支拡張薬を用いることが多いですが、増悪を繰り返す場合には加えてステロイド吸入剤を使用します。
また、高齢者の場合では気道感染による呼吸困難を悪化させる要因を少しでも減らすために、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種が推奨されることもあります。
呼吸リハビリテーションでは、呼吸訓練や運動療法により、患者の息切れを軽減し、普段の生活が過ごしやすくなるように支援していきます。
在宅酸素療法は、呼吸不全や肺高血圧を併発している患者が対象になります。薬を使用しながら酸素吸入もしていくことで、少しでも長生きできるように症状を落ち着かせていきます。
肺気腫の予防
肺気腫の一番の原因は喫煙といわれています。なので、禁煙することが肺気腫を予防する上で最も効果的です。また、適度な運動も効果があるため、普段の生活で少しでも動くことが大切です。また肺気腫の早期発見、早期治療を行うためにも定期的に健康診断を受ける事も大事です。肺気腫を患うと風邪が重症化して肺炎に発展してしまう事もあり、日頃から手洗いやうがいを徹底し、感染対策を行うすることも大切です。
また、インフルエンザワクチンの接種により死亡率が低下することも報告されています。そのため、インフルエンザ流行期に入る前に毎年ワクチン接種を行っておくと良いでしょう。
はるた呼吸器クリニック 院長春田 吉則
【経歴・資格・所属学会】
広島大学医学部卒業
中国労災病院・広島大学病院・広島アレルギー呼吸器クリニック八丁堀等で勤務