2025年1月に広島市南区段原で開校した「G to F」を運営する小田原順蔵さん。「個性をキャリアへ」という理念を掲げる「G to F」は、不登校経験などの悩みを抱える若い世代向けに開かれたこれまでにないスクール。中学校教諭、教育委員会、中学校長と、37年間教育に携わってきた小田原さんが、ゼロあるいはマイナスから一を生むために奔走する今の思いを聞きました。
「G to F」は、「Gift to Function(才能を職能へ)」を意味しています。人にはそれぞれの個性があり、得意なことも不得意なこともそれぞれです。しかし集団で学びを進める学校というシステムの中で、ちょっとしたつまずきから自己肯定感の低下につながってしまうことがあります。さらに、そうした自分の個性と周囲とのジレンマから、外部との関わりを絶って内に籠もってしまうケースも増えているのが現状です。
しかし感受性の強い彼らの中には特定の分野に特異な才能を持っている人が多く(※下グラフ参照)、しかもその能力はこれからの社会に求められるものであることが多いのです。そこで、学校へ通いにくくなっている、あるいは社会に出て行きにくくなっている中学生から大学生くらいの年齢の方を対象に、自分が好きな学びを通して社会と関わるエネルギーを蓄える場として「G to F」を開設しました。通いやすい環境で彼らが一歩を踏み出そうとする思いを後押しし、心のケアと得意な能力を伸ばすサポートを両輪で進めて自己肯定感につなげ、彼らの能力を必要とする企業とのマッチングを図ります。
私の妻も教員をしていたのですが、年々増える不登校児のサポートをしたいと一念発起して早期退職し、学校に行きにくい小学生の居場所「不登校支援センターパルク」をつくりました。その活動を続けているうちに、中学生以上についても相談を受けることが増え、少し上の年齢層の受け入れ場所について考え始めていました。そこで私の定年を待ち構えていたかのように(笑)、その新しい取り組みを手伝ってほしいと言われたのです。
妻はやると決めたらテコでも動かない人なので、突然学校を辞めて「パルク」を立ち上げると言った時も特に反対せず、「やってみんさい」と見守っていましたが、まさか自分にまでお鉢が回ってくるとは!! しかし自分自身も現場や教育委員会で不登校の問題と向き合ってきて、定年後は何かしらの不登校支援に関わろうと考えていたので、退職を一年早めて「G to F」の立ち上げに関わることを決めました。
「パルク」の時もそうでしたが、「G to F」もおそらく全国のどこにもモデルケースのない取り組みなので、実際にやってみたら想像以上に大変なことの連続。けれども、ここから誰かの人生の背中を押すことができれば、との思いで四苦八苦区しつつも進んでいます。
「不登校支援センターパルク」を立ち上げた
小田原かおりさんの記事はこちら
外部の企業や大学の理解と協力をいただいて、特に近年高まっているDX化による生産性向上を目指す企業にニーズの高い、デジタルスキルを中心にしたカリキュラムを設置しました。
スタートアップの1月から用意したのは下記の3コースです。
4月からはさらに多彩なコースの開講を予定して、それぞれが得意なこと、やってみたいことの選択肢を増やします。
「パルク」の時もそうでしたが、「G to F」もおそらく全国のどこにもモデルケースのない取り組みなので、実際にやってみたら想像以上に大変なことの連続。けれども、ここから誰かの人生の背中を押すことができれば、との思いで四苦八苦区しつつも進んでいます。
オープンスクールの様子
コンテスト参加コース紹介
不登校支援の経験がある公認心理師が代表を務める「G to F」では、ただ学習の場を提供するだけでなく、カウンセリングによるサポートをセットで提供することが大きな特徴です。一人ひとりに合わせた無理のないスケジュールの実施や、コース終了後の進路相談など、技術習得だけではない手厚いフォローを行っていきます。
また学校や社会に出て行きにくくなっている方を対象としているため、無理なく少しずつ通う習慣をつけてほしいとの思いから、授業は月に2回、土曜日の午後のみ。今後コースが増えた場合は、午前中や夕方の活用も考えています。
カリキュラムは“積上げ式”ではなく一話完結型の“単位制”にしているので、仮にペースを乱して少し休暇が必要になっても、また休んだところから始めることもできるし、同じ講座を繰り返し受けることもできます。
「G to F」カリキュラム紹介動画
個性をキャリアにつなぐ役割を担うのなら、と新しい勉強に取り組んで、キャリアコンサルタントの国家資格を取得。また立ち上げるにあたり、県や市町の教育関係の施設や、学校を訪問して取り組みを説明して回り、チラシの配布やポスティングもしました。新聞にも取り上げてもらいましたが、なかなか必要としているご本人やご家族に届かず、実は1月開校時の受講生はまだいないのです。
外に出られずにいる方に届けるには、WEBからもアプローチする必要があると考えて、YouTube動画づくりや、Instagramでの発信などを始めました。私自身もこの歳で新しい挑戦の連続です。もちろん不安も戸惑いもありますが、それも含めて誰かの力になるメッセージとして届くならそれでいいとの思いです。
「G to F」への思いを語る小田原さん
これまでに前例のない取り組みだからこそ、最初から社会にすんなり浸透するはずもなく、長期的に見ていかなければならないことも覚悟しています。だからとにかく必要とする方に届くまで、発信し続けます。誰かに話を聞いてほしい、できることなら扉を開けて外に出たい、自分の得意なことを仕事として役立てたい、そう思っていてもどこで何から始めたらいいかわからずに困っている人は必ずいるからです。そして「G to F」は、きっとそういう人たちの力になれると信じています。
私たちの思いに共感して、カリキュラム作成や講師を引き受けてくださった地域の皆様のためにも、教育に携わってきたこれまでの経験と、新しい挑戦に恐れず取り組む気概の両方を振り絞って、自分にできることをやってみます。
小田原さんによる「G to F」の紹介
株式会社presenceエール取締役 G to F担当
教員普通免許状[中・高(外国語)]
キャリアコンサルタント
1963年広島生まれ広島市の中学校教諭を経験後、広島市教育委員会学校教育部 生徒指導課にて、暴力行為、いじめ、不登校などの問題に取り組む。市立中学校の校長を務めた後、退職。
代表で妻の小田原かおりさんとG to Fを立ち上げ、運営、広報、営業活動に携わる。